やくのと銀河鉄道
お歯黒名号 大山の明神さん 龍神の井戸
涸れた温泉 長いながいションベン

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お歯黒名号

その昔、副谷の里に、夜久野城を落ちのびた佐々木半左衛門信高が住んでいた。十八歳になる“よし“はその家の下女であった。主人半左衛門の教化により、他力本願の教えに帰依していた。「如来様は私のような賎しいものまでお守りくださり、先の世まで御扶けくださる。」と深く喜び朝な夕な“南無不可思議光“の御名号を唱えて感謝の日々を送っていた。

やくのの昔ばなし

半左衛門の妻は“てふ“と言い、嫉妬心の深い女で、夫が下女の“よし“と不義の仲ではあるまいかと日頃から疑っていた

やくのの昔ばなし

年の暮れも迫り、正月の餅つきをしたその夜、昼の疲れで下女の“よし“は、かまどの口に臥せて眠っていた。これを見た“てふ“は、日頃の恨みを晴らそうと邪心を起こし、お歯黒の金を火の中に投じ、それを赤く焼いて眠っている“よし“の胸に浴びせかけた。嬉しやこれで本望を遂げたと“てふ“は喜び勇んで床についた。

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一夜明け、いつものとおり半左衛門は、祖師親より賜った御名号に参拝した。「あっ」半左衛門は仰天した。見ると、七文字の御名号のうち『無』 『不』の二文字が焼け失せているではないか。一体誰の仕業なのかと妻の“てふ“を呼び、聞いたが知る由もない。

やくのの昔ばなし

“てふ”は不思議に思い台所に来ると、なんとしたことか。昨夜、首尾よく仕とめたはずの”よし”がいつもと変わらず立ち働いているではないか。

やくのの昔ばなし

「昨晩は何か変わったことがなかったかい。」と問うたところ「 とても苦しい夜でした。今朝不思議なことに懐からたくさんの灰が出てきました。」という。これを聞いた”てふ”は”よし”が主人に随参するのは真実の信心からであり”よし” は如来の加護を受けたのであることを悟った。

やくのの昔ばなし

 「なんおそろしや」”てふ”は罪の深さにおののき、すべてを懺悔して以後、善心に立ち返った。「罪深い女身でありながら、如来のお慈悲にかない、永い世の先まで御扶けにあずかるというのに、別れてこの世で身代わりに御立ち下さり冥利につきる。」 と”よし”は涙を流して歓喜した。

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大山の明神

やくのの昔ばなし

昔々、門垣の里に庄兵衛というきこりが住んでおった。ある日のこと、なりわい木こりの村人は、いとものように大山の森で山仕事をしていた。すると、陽もかげる頃、どこからともなく村人を呼ぶ声がした。気のせいかな?時を惜しんで村人は、更に斧をふって仕事を続けた

やくのの昔ばなし

「庄兵衛・・・庄兵衛、ここは神の森じゃ刃物は入れてはならぬ。」今度ははっきりと聞こえてきた。耳のせいにしては余りにもはっきりと聞こえてくるが、周りは人影もない。

やくのの昔ばなし

すると目の前に、借足らずの首輪の模様のついた三匹の小さな蛇が、かま首をもたげてこちらをにらんでいるではないか。

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気持ち悪くなった庄兵衛は、力の限りその小さな蛇に向かって斧をふるい続けた。

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翌朝のこと『大変だ、大変だ。・・・・』村人たちのさわぐ声に目をさまし外に出てみると、谷向いの山麓にある彼の家までひたひたと白波は押し寄せ、村は一夜にして湖水と化していた。  『な、何たることだ』 ・・・みれば、口は米をふるう箕程もある大蛇が、大山よりこちらの山麓まで谷を堰き止め延々と身を横たえているではないか。『あ、首に輪がある』 まさしくそれは、昨日の小さな蛇の化身に違いない。

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おののいた村人達は、以後、村の産土神としてあがめ奉るとの誓いを立てた。やがて水は引き、村はもとの平穏な姿に帰っていった。大山の中腹には小さな祠が建てられ、屋根は蛇のねぐらのために藁葺きにされたのだった。『今年もわら屋根の中に三匹もいはった』『水の神じゃで今年は水には困るまい。』祠の葺き替え作業は、今日も春の祭りに続けられ、語り継がれている。


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龍神の井戸

やくのの昔ばなし

昔々、高内の高台に、とても情け深くてやさしい長者さまが住んでいた。その長者さまの屋敷の事を長者屋敷とよんでいた。  長者屋敷の庭に、龍神井戸とよばれる古い大きな井戸があった。そこには、龍神さまが住んでいると言い伝えられており、村人たちは、何か悪いことがおきると『龍神さまのたたりじゃ』といって恐れていた。

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ある年のこと、田植えが済んだころから、どうしたことか雨が一しずくも降らなくなってしまった。毎日からりと晴れあがった空と、だんだんしおれていく稲を見ては、ため息ばかりついていた。

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『このままでは、稲が枯れてしまう。』  村人たちは、長者屋敷へ行って、相談することにした。

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さて、長者屋敷では、長者さまが龍神井戸に向かって、一心にお祈りをしていた。情け深い長者様は、日照で、村人達が苦しんでいるのを、なんとか救えぬものかと、一日中祈っているのだった。

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龍神様に願いを聞いてもらうには、娘をささげなければならない。長者さまは、ますます悲しい顔をしてうなだれてしまった。
『お父さま、わたしが龍神のところへ参ります。』この人は、長者さまの一人娘で、美しいだけではなくたいへんやさしく、困っている人を見たら、進んで助けていたので、村人たちからは、長者さまに負けないくらい慕われていた。
長者さまは、『お前が行くことはない。わたしが行く』と言った。『いいえ、わたしが参ります。わたしでなくては龍神さまは願いを叶えてくれないでしょう。言い伝えにあるように、わたしが龍神さまに嫁ぐいがいに、この村を救う道はないと思います。お父さまや、村のみなさまとお別れするのは、とてもつらいことですけれど、わたしが龍神さまのお嫁になることで、村を救うことが出来るなら、わたしは喜んで参ります。』

やくのの昔ばなし

数日後、いよいよ娘が龍神さまに嫁ぐ日がきた。娘は、真っ白な花嫁衣裳に身を包み、長者さまをはじめとして村人たちが見送りに来ていた。娘はみんなの顔をゆっくり見渡した後、『 お父さま、これから先、何か困ったことがおきましたら、井戸に向かって何なりとおっしゃってください。わたしは喜んでその願いが叶えられるようにしましょう。』と、長者さまに言い残して、井戸の奥深く沈んでいった。見送りに来ていた人達は、動こうともせず、ただ手を合わせてじっと坐っていた。

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どのくらいかたって、突然ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。みるみるうちに空は黒くなり、ザーザーと激しく降ってきた。こうして、田畑は豊な水にうるおされ、その年の秋は豊年満作となった。村人たちは龍神さまのおかげと大喜び、長者さまのお屋敷で、お祝いの宴が開かれることになった。

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しばらくして、長者さまは、宴に使う器が足りないことに気が付いた。長者さまは、ふと娘の言葉を思い出し、龍神さまに向かって、お膳やお椀のお願いをした。すると、いつの間にやら美しい膳やお椀が、きちんと座敷におかれていた。長者さまは大喜びして、龍神さまに何度もお礼を言った。

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翌朝、後片付けをして、借りたお膳やお椀を井戸に運んだ。長者さまがお礼を言って帰ろうとすると、井戸の底からすすり泣きのような声が聞こえてきた。耳をすますと、それはまさしく長者さまの一人娘が泣いている声だった。不思議に思った長者さまが、運んできたお膳やお椀を調べてみると、お椀の一つが割れているのだった。 『おお許しておくれ。龍神さまに借りたお椀の一つを割ってしまったばかりに、お前に悲しい思いをさせてしまった。龍神さま、もう決してこのようなことはいたしませんから、どうかお許しください。』  しかし、井戸の奥からは何の返事もなく、娘のすすり泣きもいつしか消えてしまった。それからというもの、長者さまや村人たちが何をお願いしても、願いが叶えられることはなかったということだ。


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涸れた温泉

やくのの昔ばなし

それは随分昔のこと、額田向嶋の地に温泉がとうとうと湧いて出ていた。
雪の多い夜久野の里に、冬でもポカポカと湯気の上がるこの温泉の周りには、土地の人は勿論、随分遠くの人達も聞きつけて集まってきた。こんこんと湧き出る清らかな温泉には、沐浴は勿論、持帰って炊事洗濯にまでも役立てていた。そして、いつしかこの温泉を【薬師様のいで湯】 と名づけて呼ぶようになった。
『めっぽう今日は冷え込むわい』『ほんとに寒いことじゃ』『どれ、それじゃ薬師様まで出かけようかいの』と、寒い日には温湯に浸かって吾身の果報とお互いの冥加を喜び合った。 また、暑い日には暑い日で『ほんに今日はくたびれたわい』『毎日こう暑くてはやりきれんな』と、折にふれて【薬師様のいで湯】に感謝し、心の慰めの場としていた。

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そして、温泉に対する信仰の念が深められ、やがて、観音様のそばには薬師堂が建立された。平穏な日々や歳月が続き【薬師様のいで湯】は、一日も変わることなく清い湯出を続けていた。

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しかし、時の流れがお薬師様に対する感謝の念を薄れさせたのか、ある日にこと何気なく村人が、神聖なる霊湯の薬師様の出湯で、こともあろうに赤ん坊のおむつを洗ってしまった。

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すると、『あらあら不思議や・・・・』 すき透った出湯 の中から突然羽ばたきが起こり、真っ白なコウノトリが舞い上がっていった。

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 コウノトリは、西北の方向へと飛び立ち、ポカポカと湯気の出ていた温泉は、たちまち涸れて行った。無惨にも霊域を汚してしまった村人達は、いつの日か必ずもとの清い温泉が湧き出ることを念じて、飛び去った西北の方向に向かって祈り続けた。この伝説に興味を覚え、涸れた温泉の名残を惜しむ人の中には、コウノトリが飛び去った地とは、今の城之崎温泉ではないかと力説される。いろいろと想像を巡らせれば、額田温泉は、城崎温泉の元祖というべきか。


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長い長いションベン

やくのの昔ばなし

昔、ある村はずれの一軒家に一人のおじいさんが暮らしていた。なんでも隣の村の親戚で法事があって、出かけていった時のことじゃった。それはそれは、たいそうなご馳走が出たもんで、ついつい深酒してしもうたおじいさんは、ひょろめく足を突っ張るようにしながら、その家を出た。夜もすっきり更け、暗いくらい晩じゃった。

やくのの昔ばなし

そして、村の境にまでたどりついた時、同じ村のお寺のおじゅっさんにばったりであった。おじゅっさんも、『もう1つ向こうの村で法事があってな、その帰りじゃ』と言うことじゃった。ベロベロに酔っ払いなさって、それはそれは、足元もおぼつかない様子でござった。『おじいさん、すまんがちょっとションベンするさかい、わしの体をしっかりつかまえててくれんかのう・・・・』とおっしゃるもんで、おじゅっさんの手をしっかりと握ってあげた。

やくのの昔ばなし

おじゅっさんは、道ばたの草むらに向かってジョロジョロ、ジョロジョロ、気持ち良さそうに立ちションベンをしなさった。  ジョロジョロ、ジョロジョロ、長いながい立ちションベンじゃった。『おじゅっさんがふらついてこけでもしなさったら大変じゃ』 と、おじいさんは、おじゅっさんの手を更にしっかりと握りしめたもんじゃった。

やくのの昔ばなし

ジョロジョロ、ジョロジョロ、長いながい立ちションベンは、いつまでもいつまでも続いた。

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『おーい!おじいさん、そんなところで何しとるんじゃ』突然耳元で大きな声がした。隣の若けぇしゅじゃった。『何しとるって、わしゃ、おじゅっさんがションベンしなさるんで、こけんように手ぇ握ってさしあげとるんじゃ。長いションベンで、まだ終らんのじゃよ』  『おじいさん、あんたキツネに化かされとると違うか。もう夜があけとるでぇ』

やくのの昔ばなし

ふと気がついたおじいさんはあたりを見回した。  もうすっかりあたりは夜があけ、若い衆は朝の草刈に出かける途中のようじゃった。おじゅっさんの姿はどこにもなかった。手と思ってしっかりと握っていたのは、道ばたに立っている木の枝だった。  ジョロジョロ、ジョロジョロ・・・・・下の溝から水の流れる音がしていた。


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